神戸(KOBE)から、散りゆく桜を送る小品
KOuさんの仰る『体内時計修正作業』がまだまだ済まない私、散りゆく桜をネタに、また書いちゃいました。
今回は、ちょっと趣向を変えてみました。
どう変えたのかは「お楽しみ」で。
「そうやな」
僕の横を歩く彼女は、昨夜来の雨に散りかけた桜を眺めていた。
彼女の視線の先では、四月初旬からの僅かな日々、港を望む景色に彩りを添えてきた桜が、景色との最後の競演に興じていた。
桜を見る彼女の横顔を、僕は見ていた。
曇り空を透して届く柔らかい光は、彼女の顔立ちに仄かな陰影を与え、整った鼻梁と魅力的な唇を引き立たせていた。
「せっかくやのに、生憎の空やね」
「花曇りって、やつか」
僕は黒に見紛うような濃い紺色のスーツに身を包み、大きな鞄を肩から提げていた。
ショルダーストラップから肩に伝わる鞄の重みが、僕の行く先と神戸を隔てる距離と、これからの時間の重さを、僕に教えていた。
「桜も、もう見納めね」
「うん」
その後に続けるべき言葉を、僕は言い出せなかったし、彼女もまたそうだったのだろう。「新幹線は?」
「新神戸を三時」
時計を確認した僕は、彼女から一歩後れた。
彼女は鮮やかなイエローグリーンのシャツに、グレーの上着を羽織っていた。
デニム地の上着は彼女の腰辺りまでしか届かず、上着より濃色のパンツが、腰から長い脚に至る滑らかな曲線を、その優美さを引き立てるように、包み込んでいた。
彼女を背後から眺めた僕は、思わず、彼女の腰から下肢に至る艶かしい曲線に、見とれてしまった。
重力の存在など知らないかのように、挑発的に「ツン」と引き締まったヒップラインは、他の男の目を惹き付けずには、おかないだろう。
僕はその瞬間、神戸に住む全ての男達に、嫉妬していた。
「じゃぁ、もうあんまり、時間ないね」
追い付いた僕に、彼女は寂しそうに言った。

「九州の桜は、まだ咲いてるの」
僕の傍らをゆっくりと歩く彼女は、僕の行く先を、寂しげに口にした。
「どうかな、どうでもいいよ」
実際、どうでも良かった。
「そう」
「もし咲いてても、景色は違うよ、神戸とは」
本当は、景色なんてどうでもよかった。
本心では「君さえ一緒に居てくれれば、桜なんてどうでもいい」と言いたかったのだが、僕はそれを言葉には、出来なかった。

ふと巻き起こった風が、桜並木を大きく揺さぶり、淡い薄桃色の吹雪で、僕と彼女を包んだ。
「綺麗やね」
「うん、そうやな」
「桜も、もう終わりやね」
彼女は再びその台詞を繰り返した。
しかし、その後に続く言葉は、言い出せないようだった。
駅に向かう坂道を下りきったところで、僕達は街角に咲く桜を見上げた。
「桜も、もう見納めやね」
彼女は再び、そう言った。
「うん」
僕は、そう答えるしかなかった。 阪急六甲駅でバスに乗ろうとした僕を、彼女が呼び止めた。
「待ってるからね」
「有難う」
精一杯の笑顔を作りながら僕を見送る彼女に、僕もなるだけ爽やかな笑顔を見せた。
(心の中で桜が散っている方は、こちらへ)
(オリジナルは、ず~っと下へ、続きます)
「お土産は、明太子でいいわ」
バスのステップに足をかけた僕に、彼女がそう言った。
「えっ」
僕は意外な表情を見せていただろう。なぜ、明太子なんだ。せめて「ひよこ饅頭」にしてくれよ。
「明々後日の晩御飯も、要らないわね」
彼女は当たり前のように、そう続けた。
「うん」
僕は、僅かな沈黙を置いてから、言った。
「助かるわ、食費」
「せっかく、いい感じやったのに」
僕は最後の最後で、彼女が僕との約束を破った事に、ちょっと不満だった。
「あんたの感傷に、ず~っと付き合ってたら、大変やわ」
妻は笑いながらそう言うと、僕に手を振りながら、駅前のスーパーに向かって歩き始めた。
僕がバスに乗り込むまでは「別れを惜しむ恋人」を振舞おうと、僕達は約束していたのだった。
判で押したような毎日に少し刺激を与え、散りゆく六甲の桜を、趣向を凝らして送りたかった僕の発案に、吹き出さずに付き合ってくれた彼女に感謝しながら、僕は出張に向かった。
思わぬ土産のリクエストに困惑しながら。
~fin~
という訳で、最後に外させて頂きましたが、如何だったでしょう。もし不愉快な後味や、不快感を与えてしまったのなら、深くお詫び致します。
この結末は、ついつい感傷的な文章を書いてしまう自分を皮肉っているもので、本当に「別れを惜しむ恋人達」を茶化す意図は全く有りませんので、その辺り、ご理解ください。
桜をテーマにした前の二作が、過去を振り返る内容だったので、今回は少し明るめに終わろうと…。
書きながら「このまま別れさせようか」とも思いましたが、「イヤ、今回は明るく終わるんだ」と決めていたので、こんな結末になってしまいました。
(追記:結末を「外さないバージョン」も作りました(笑))
あっそうそう、この作品も、もちろん「フィクション」です。
「僕」は実際の私ではありません。
その辺り、お間違えなく(笑)。











7 comments:
結末が二つあるの、おもしろいですね。
僕はこっちの結末が好きです。
>「せっかく、いい感じやったのに」
>「あんたの感傷に、ず~っと付き合ってたら、大変やわ」
こんな雰囲気もいいもんですね。
kuriboさん、こんばんわ。
こちらの方がいいですか。
嬉しいですね。
最後の会話、関西の夫婦にありがちな、微笑ましいやり取りかな?と思います。
私も、実は気に入ってたりします(笑)。
女性は現実的で、男性は夢見がち、というのは、全世界共通かも知れませんが(笑)。
kamimuraさん>
人生の中の日々の選択肢を見ているようで
面白かったです! あぁ~ こういう可能性
もあるし、またこういう可能性もあるのか!!
と。
そういう中で、奥さんの現実に戻ってのリア
クションとのギャップが最高でした!
DAIさん>
どうもです。
DAIさんも、こっちの結末の方が良かったですか。
やはり、明るい方がいいですよね。
>奥さんの現実に戻ってのリアクションとのギャップが最高でした!
有難うございます。
「明太子」がお土産なのは、「Kamimura's Web Novel」を成分解析したところ、主成分が「明太子」と「野望」だったからです(笑)。
「明太子」暫らくトラウマになりそう(笑 )。
とんでもないミス、見つけちゃった。
修正、修正っと。
こんにちは。遊びに来ました^^
写真と物語、面白いですね。
会話の雰囲気が好きです。
ラストは味があっていいです。
にんじんさん、いらっしゃいませ(笑)。
お褒め下さり、有難うございまーす。
この「桜」シリーズの短編は、写真を載せるのが目的だったのですが、何時の間にか文章にずぶずぶと…。
こちらからもまた伺いますね~。
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