雑記、写真、自由空間

☆☆ Works:「Kamimura's Web Novel」に掲載中の作品 ☆☆
◆過労死、給料遅配、会社員の「負の現実」を抉り出す社会派作品  ・新しい一歩(連載終了)
◆「古き良き時代」、恋がまだ「冒険」だった頃…  ・Be better than it is.(連載終了,PDF公開中)
◆短編
決めるのは誰か(連載終了) ・壁のち壁、ところにより…(連載終了)  ・Office Harbor View(連載終了)  ・超短編集(神村的日常にて不定期連載中)

2007/02/12

暖冬に送る小品 - Differnt point of view

Spring has come ? -02

 まるで待ち構えていたかのように前触れもなく、濃密な花の香りが僕を静かに包んだ。それはまるで、爽やかな女性が柔らかな香りを残して立ち去った後のようだった。季節外れの甘い香りに驚いた僕は、視野の片隅に感じていた違和感の方へと、視線を向けた。
「もう花が咲いてるな。今年は暖かいな」
 僕と並んで歩く男が、白い花に目を向けながら言った。
 街を出る僕を駅まで送ると言う彼は、頼みもしないのに僕の隣を歩いている。

Spring has come -03

 僕はもう二度と来ることのない街の風景を記憶に焼き付けようと、ゆっくりと歩みを進めていた。
 本当はもっとゆっくりと、景色を味わうようにして歩きたかったのだが、傍らの男は妙に早足だった。
 よっぽど僕が街を出るのを、早く見届けたいのだろうか。
 そう訝しむ僕の視野で、淡い桃色が閃いた。
「これは、桜か、ひょっとして」
「梅じゃないか」
「いや梅には見えないな。寒桜って奴か」
「やっぱり、今年は暖かいな。ちょっとおかしいよな。この暖かさは」

「アツアツの奴が、おるからやろ」
 薄い桃色の花を見上げながら歩く彼の背中に向かって、僕は早口に言った。
 振り向いた彼は、まるで天子が描いたかのような幸せを表情に浮かべていた。
「惚気やがって」
 僕は心の中でだけ、そう言った。

「悪いな」
「気にすんな」
 彼の同情を装った言葉に対して、僕は彼の顔を見ずに、早口で答えた。
「本当に、気にしちゃいないのか」
「ああ。気にしちゃいないよ」
 僕が僕の口からそう言っているのだから、その言葉に嘘はないのだが、どうやら彼には信じ難いらしい。

Ume-blossom- 16

 駅に向かう細い路地を入った所で、今度は紅梅が僕を出迎えてくれた。
 どうやら、街中の木々や花々が僕を見送るために、予定を早めて咲き始めたらしい。
「また咲いてるな。梅が咲くのは、もう少し遅かったんじゃないのか」
 民家の軒先から突き出た枝で咲く紅い梅を見上げながら、傍らの男が溜息を漏らした。
「やっぱり、今年は暖かすぎるよな。おかしいよな」
 僕は小さく溜息を吐いた。
「アツアツの奴が、おるからやろ」
 同じ事を何度も言わせるなと思いながら、僕は彼の顎に向かって言ってやった。
 再び、彼は至福に満ちた笑顔を僕に向けた。
 よっぽど嬉しいのだろうか。

Red in the park

「でも、今年は暖かすぎるよ」
「まぁな。でも、暖かかったらいいじゃないか。寒いよりは」
「いや、まぁ、そうやけど。この暖かさは異常だよ」
 僕は再び小さな溜息を漏らした。
「まぁ、異常かも知れないけど、そうじゃないかも知れないやろ。気象がおかしな方向に傾いていると、人は思いがちだけど、ひょっとしたら大気の長周期的な波動かも知れない。おかしい、おかしい、という目でばかり見ていたら、良くないんじゃないのか」
「そうなんかもな」
「暖かい冬に空恐ろしさを感じる人がいれば、暖かくて嬉しいと、素直に喜ぶ人もいる。早く咲いた花を見て綺麗だと言う人もいれば、異常気象のせいだと不安に感じる人もいる。どんな物事でも、心の持ちようで違った見方ができるんじゃないかな」
「ふーん」
 傍らの男は、公園で咲く木瓜の赤い花に目を向けていた。
「じゃぁ、街を出るお前にも、次の街では幸せが巡ってくるかも知れない、ってことなのか。それは」
 男の口調には、微かに勝者の余裕のような物が漂っていた。
「おれはいつでも幸せだよ」
 彼の余裕に不快感を覚えながら、僕はムキになって答えた。

Spring has come ? -01

 次の角を曲がると、駅はすぐそこだ。
 角を曲がる手前の駐車場で、僕は早咲きのタンポポを見つけた。でも彼には、その存在を教えなかった。
 同じ言葉のやり取りには、もう辟易していた。

「じゃあな」
 窓口で切符を買った僕は、彼にちょっとだけ振り向いて言った。
「次の街では、幸せになれよ」
 男は「次の街」をやけに強調して、見送りの言葉をくれた。

 僕が改札をくぐった事を確認した彼は、半ば駆け出しそうな調子で、駅の出口に向かって歩いていった。
 彼の背中を見送りながら、僕は彼に何度となく説明した言葉を、思い出していた。
 しかし何度説明しても、彼は信じようとはしなかった。
「お前は、勘違いしているんだぞ」
 おまえのいい人が僕に色目を遣っていたのには、僕も気付いていたけど、僕は指一本、お前の大事な人の体には、触れちゃいないんだ。

Ume-blossom- 17

「俺にはな、そっちの趣味はないんだよ」


 お後が宜しいようで。

追記:
 このオチ、も一つかな?
 花の写真がもったいないなぁ(じゃぁ、別のオチを考えつけよ、と一人ツッコミ、笑)。

2 comments:

@aka さんのコメント...

このオチは読めませんでした。面白いです。

終盤までダラダラと話を続けておいて、最後の一行で読者をハッとさせるわけですね。構成がイイと思いました :)

Kamimura さんのコメント...

@aka さん、どもでーす。

 楽しんで(?)貰えたみたいで、嬉しいです。 =)
 このオチ、satomi さんのこの投稿を読んで「今回はこのパターンでいこう」と確信犯で書かせてもらいました(笑)。
 ちょっと、オチに至るまでが長かったかなぁ…。

 さてさて、「そっちの趣味」とは、一体どちらに思えたでしょう?
 私としては、「僕」は「ヘテロ」であって欲しいのですが…(笑)。

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